· 

24フレットギター試作 10

トラスロッドカーブ

ギターネックの製作を始めた頃、問題となったのことが2つあった。

1つめは、フレット位置の計算。

これに関しては、2の12乗根(周波数平均律)、2分の1の12乗根(弦長)から、

17.817という数値が理解できた。

2つめはロッドカーブの設定。

とにかく、よくわからなかったので、

まず、上の図のように有名なメーカーのネックを真っ二つに割って、

ロッドカーブを実際に観察した。

上からPRS、FENDER、GIBSONである。

全て中古で入手したレギュラーモデルだが、

20年たった今考えると、かなり思い切ったことをしたものだ。

現物をコピーしてレプリカを作ることはできるが、

オリジナルモデルに応用するには、ある程度セオリーを理解する必要がある。

そこで参考になったのが上の3冊。

左の巨匠RobertBenedetto氏の著書は、

製作方法、治具・工具等、色々と参考になった。

5本組のビデオも持っているが、左の著書と内容がほぼ連動しており、

発売から20年以上経った今でも、

ハンドメイドギター製作実演資料の最高峰だと思う。

今回の24フレットネックのロッドカーブが上の図。

ロッド両端部とカーブの底は5mmほどの高低差をつけている。

ロッドナットを締めていくと、

ロッドをロッドナット側へ引き抜く力がかかる。

ロッドの先端部にはM5xP0.8のネジが切ってあるため、

ロッドナットを1回転(360度)締め込むと、

上の図のA-B間でロッドが0.8mm短くなる。

A-B間でロッドが短くなれば、ロッドにテンションがかかり、

カーブをつけて仕込んだロッドが、直線に近づこうとする。

その結果ネックは青い矢印の方向(逆反り方向)に反る。

ロッドが正常に作動するには、ロッドエンドを固定点とし、

赤い矢印の方向にロッドがネック内で、ほんの僅かだが滑る必要がある。

ロッドが一部分で固着している場合、

その固着位置とロッドナットの間でしか、ロッドが作用しない。

ロッドナットを締め込むと、たまにパキッとかキキッと嫌な音がする事があるが、

ロッドが滑る際に出る摩擦音だろう。

ロッドにチューブを被せ、石鹸やパラフィン(ロウ)を塗っておくと、

ネック内でロッドの滑りが良くなり、ロッドの固着を防ぐ事ができる。

上の図はネックの断面図。赤い部分がトラスロッド。

青い部分がトラスロッドを閉じ込めるフタ。

ロッド調整の際、ロッドがネック内で長手方向に僅かに滑る必要があるが、

上の図左の様に、上下左右に隙間があると、

ロッド鳴りが生じるので、ある程度タイトに仕込む必要がある。

カーブをつけたロッドの仕込みに関しては、多くの失敗を経験した。

右の図は以前、ロッド鳴りを恐るがゆえ、間違いを起こした例。

ロッドが固着したままの状態で、ロッドナットを締めると、

想定外の位置で逆反りしてしまったり、全く効かなかったりする。

ロッドに関しては自作することも多い。

一番上はPRSロッドの自作コピー。

ステンレスロッドでヘッド側とエンド側にネジが切ってある。

片側が逆ネジになっており、

傾斜したほぼストレートに近い緩やかなRの溝を掘ってインストールする。

上から2つめは、アイバニーズタイプのロッドで、極薄グリップに使用。

このタイプは、ロッド溝にカーブをつける必要がないうえ、

確実にロッドが作用するので、お手軽だ。

上から3つめは、今回使用するカーブをつけて仕込む一般的なロッド。

その下は製作途中のロッド30本ほど。

数年前、日本国内のテレビ番組で巨匠Benedetto氏を見ることがあった。

確か、ギター好きの俳優山本耕史氏が、

Benedetto氏宅にホームステイするような内容だったと思う。

番組で見たBenedetto氏は物腰柔らかく、紳士的で素晴らしい人格者だった。

巨匠の技術にはとても追いつくことはできないが、

決して驕らない巨匠の人間性は、見習いたいものである。

上の画像は9時間にも及ぶ5本組の製作実演ビデオ。

初心に帰り、十数年ぶりに見たくなったが、

困ったことに、ビデオデッキが壊れている。