トラスロッドカーブ
ギターネックの製作を始めた頃、問題となったのことが2つあった。
1つめは、フレット位置の計算。
これに関しては、2の12乗根(周波数平均律)、2分の1の12乗根(弦長)から、
17.817という数値が理解できた。
2つめはロッドカーブの設定。
とにかく、よくわからなかったので、
まず、上の図のように有名なメーカーのネックを真っ二つに割って、
ロッドカーブを実際に観察した。
上からPRS、FENDER、GIBSONである。
全て中古で入手したレギュラーモデルだが、
20年たった今考えると、かなり思い切ったことをしたものだ。
現物をコピーしてレプリカを作ることはできるが、
オリジナルモデルに応用するには、ある程度セオリーを理解する必要がある。
そこで参考になったのが上の3冊。
左の巨匠RobertBenedetto氏の著書は、
製作方法、治具・工具等、色々と参考になった。
5本組のビデオも持っているが、左の著書と内容がほぼ連動しており、
発売から20年以上経った今でも、
ハンドメイドギター製作実演資料の最高峰だと思う。
今回の24フレットネックのロッドカーブが上の図。
ロッド両端部とカーブの底は5mmほどの高低差をつけている。
ロッドナットを締めていくと、
ロッドをロッドナット側へ引き抜く力がかかる。
ロッドの先端部にはM5xP0.8のネジが切ってあるため、
ロッドナットを1回転(360度)締め込むと、
上の図のA-B間でロッドが0.8mm短くなる。
A-B間でロッドが短くなれば、ロッドにテンションがかかり、
カーブをつけて仕込んだロッドが、直線に近づこうとする。
その結果ネックは青い矢印の方向(逆反り方向)に反る。
ロッドが正常に作動するには、ロッドエンドを固定点とし、
赤い矢印の方向にロッドがネック内で、ほんの僅かだが滑る必要がある。
ロッドが一部分で固着している場合、
その固着位置とロッドナットの間でしか、ロッドが作用しない。
ロッドナットを締め込むと、たまにパキッとかキキッと嫌な音がする事があるが、
ロッドが滑る際に出る摩擦音だろう。
ロッドにチューブを被せ、石鹸やパラフィン(ロウ)を塗っておくと、
ネック内でロッドの滑りが良くなり、ロッドの固着を防ぐ事ができる。
上の図はネックの断面図。赤い部分がトラスロッド。
青い部分がトラスロッドを閉じ込めるフタ。
ロッド調整の際、ロッドがネック内で長手方向に僅かに滑る必要があるが、
上の図左の様に、上下左右に隙間があると、
ロッド鳴りが生じるので、ある程度タイトに仕込む必要がある。
カーブをつけたロッドの仕込みに関しては、多くの失敗を経験した。
右の図は以前、ロッド鳴りを恐るがゆえ、間違いを起こした例。
ロッドが固着したままの状態で、ロッドナットを締めると、
想定外の位置で逆反りしてしまったり、全く効かなかったりする。
ロッドに関しては自作することも多い。
一番上はPRSロッドの自作コピー。
ステンレスロッドでヘッド側とエンド側にネジが切ってある。
片側が逆ネジになっており、
傾斜したほぼストレートに近い緩やかなRの溝を掘ってインストールする。
上から2つめは、アイバニーズタイプのロッドで、極薄グリップに使用。
このタイプは、ロッド溝にカーブをつける必要がないうえ、
確実にロッドが作用するので、お手軽だ。
上から3つめは、今回使用するカーブをつけて仕込む一般的なロッド。
その下は製作途中のロッド30本ほど。
数年前、日本国内のテレビ番組で巨匠Benedetto氏を見ることがあった。
確か、ギター好きの俳優山本耕史氏が、
Benedetto氏宅にホームステイするような内容だったと思う。
番組で見たBenedetto氏は物腰柔らかく、紳士的で素晴らしい人格者だった。
巨匠の技術にはとても追いつくことはできないが、
決して驕らない巨匠の人間性は、見習いたいものである。
上の画像は9時間にも及ぶ5本組の製作実演ビデオ。
初心に帰り、十数年ぶりに見たくなったが、
困ったことに、ビデオデッキが壊れている。